自殺が少ない地域は、よそと何が違うのか。

森川すいめい著『その島のひとたちは、ひとの話をきかない』(https://amzn.to/2xoBcta)。

精神科医・鍼灸師の著者が、「自殺希少地域」に対して行ったフィールドワークの経緯と結果をまとめたもので、生きやすさ・生きづらさについて興味・関心のある方にはぜひ手にとっていただきたい本でした。

著者が着目したのは、先行研究での、自殺の少ない地域の人間関係についてのアンケート。

自殺希少地域は、お互いがものすごく濃厚にいたわりあっているのかと思いきや、さにあらず。あいさつや立ち話程度がほとんどの「疎」な付き合いが多数ある、ゆるやかな共同体であることが明らかになります。興味を抱いた著者は、自殺希少地域へのフィールドワークを決意します。

果たして、自殺希少地域に現れる人々の示す特徴、ひいてはその場に流れる空気には、かなりの共通点があったようです。

フィールドワーク先の旅館の大雑把な対応(部屋で出された菓子が賞味期限切れだ、と伝えた時の宿のひとの対応には笑いました)にはじまり、ベンチから語りかける老人、ルート上どこでも止まってくれるゆっくりと走る路線バス、やすやすとヒッチハイク可能な町、パチンコで勝ったからとお土産をくれるお好み焼き屋さん、初対面の著者に親の形見をくれちゃうおじさん等々、自己責任論に流れがちな都市生活者からするとずいぶんと大らかで適当で優しいけれど押し付けがましくもない人々の姿が現れてきます。

NPOとしてひとの生活を支援する活動も行なっている著者が、そういった町で得た知見を自らの支援活動に活かしてみた結果などにも言及されていて、どう生きるか、どう人と関わるか、といった点で様々なヒントが散りばめられています。

余談ながら、Amazonレビューで「大したことが書かれていない」と低評価を下しているひとのハンドルネームが「しまそだち」で、島育ちの方にはむしろこの本に書かれているようなことは自明の理なのかなぁ、なんてことも思いました。