本日はちょっと珍しい症例です。
どう珍しいかというと、こういう症状で普通は治療院に行こうとは思わないのでは、と思われるからです。
ご本人の主訴は、「対人恐怖症」。
人と会話しなければならない時に、しばしば呼吸が苦しくなり、全身がガチガチに緊張する、とのこと。
なんでウチに?とお尋ねすると、「勘」とのお答えでした(笑)。
同じような症状でお悩みの方や、同業者にお役にたてば幸いです。
患者:
20代女性
主訴:
「対人恐怖症」
「人と会話しなければならない時に、呼吸が苦しくなり、全身がガチガチに緊張する」
いったん緊張し始めると、立て直せない感じ。鍼や整体を受けてなんとかしようと思うも、なかなか治療者に症状・苦しさそのものが伝わらない。
ご家族のご不幸以来、症状が出るようになった、とのこと。
所見:
なるべく深く呼吸をしてみてもらうと、肩甲間部、鳩尾〜腹部の動きが少ない。
また、全身を使って深呼吸、と伝えても胸部に対して頭がほとんど動かず、両方の胸鎖乳突筋の強い緊張がうかがえる。
基本方針:
ご家族のご不幸の際に身体に生まれた緊張が、ネガティブな感情を「記録」してしまった可能性を考えました。
なんだか怪しい話に思われるかもしれませんが、強い感情が湧きあがった時に自分の身体を観察してみると、身体のどこかに強いテンションが発生してくることが、わりと簡単にわかります。
このような現象にご興味のある方は、『身体はトラウマを記録する』という本をお読みになると役に立つかもしれません。
ゆえに、心理的な問題であろうとも、按摩屋としての大前提は変わりません。
「コリを外せ!」です。
基本方針としては、呼吸をしやすくすることをひとまずの目標に。
また、これまで鍼灸や整体を受けても効果が実感できなかったことからすると、感覚が鋭敏になり過ぎて、過剰な量・強さの刺激はむしろ有害になってしまう可能性が高いので、微弱な刺激による変化を見つつ施術することにします。
施術:
- 座った状態で、患者さんの背中に微弱な圧で手を当てて、深い呼吸を誘導。1分程度。
→ これだけで、微かに肩のロックが緩んだ手応えあり。 - 同じく座位で、首を前後左右に動かしてもらい、動きづらくなる方向を確認。前後方向が動きづらいとのこと。小胸筋および胸鎖乳突筋を押圧刺激して動かすと前後方向の動きが楽になる。
→ 胸鎖乳突筋(〜腹直筋)と僧帽筋(〜小胸筋〜腕部)がお互いに引っ張りあって緩まなくなっている可能性あり。 - 仰臥位。感覚が鋭敏になっていると思われることから、いきなり体幹には触れず、末梢の手や足から調整。揺らしつつ緊張部位を探り、体幹の筋肉との連動を改善していく。
→ 足の太陽胃経、アナトミートレインの浅前線を意識しながら、足の硬結をゆるめて、胸鎖乳突筋をゆるめる。また、腕の太陰肺経、アナトミートレインの深前腕線を意識しながら、腕の硬結をゆるめて、小胸筋をゆるめる。 - 四肢からの刺激である程度首の前後の「綱引き」が解消されて呼吸が整ってきたあたりを見計らい、腹筋〜横隔膜をリリース。
→ 呼吸の浅さが8割方改善。 - 脊柱に可動性がつくようにゆるめる。
再考察:
後日、施術の日以降、ほとんど問題がなくなった、と喜びの声をいただきました。
一回で、出来過ぎなくらい上手く効いた例ですが、基本的には、息をしやすくしただけです。
一見、心理カウンセリングや神経系の治療が必要そうな症例でも、「コリを外す」ことで改善を助けられる例も少なからずあります(もちろん程度によりますが)。
極端な例で(私自身が経験した症例ではありませんが)「ある日突然、幽霊が見えるようになった」という患者さんの首のコリを外したら、もう幽霊が見えなくなった、という話も。
たかが筋肉のコリといえども、身心に与える影響は、底知れないものがありますね。