振幅上達理論と手技療法

 『銃夢』シリーズで有名な漫画家の木城ゆきとさんが、絵の上達について唱えた理論で、「振幅上達理論」というものがありました。

 極太で書きこみ少なめのダイナミックなペンタッチと、書きこみ多めの繊細なペンタッチの両極端を行ったり来たりすることで、絵が上達していく(かも)というものです。

 世にあまたある手技療法も、弱い刺激のものは触れるだけ(いやそれどころか、触れないのもアリ)から、強い刺激のものはぶっ壊れるんじゃないかとおもうほどのもの(こちらも、それどころか一度組織を破壊することで治癒を促す、という治療法は存在します)までずらりとあり、流派によってはひとつの流派の中にその両極端が含まれていることすらあります。

 ……といったところから、個人的には、手技療法でも、この「振幅上達理論」は、もしかしたら有効なのではないかなぁ、と思っています。

迷走、弱刺激対強刺激

 あれは開業して間もないころ。

 いっけん華奢なのにいくら圧を加えてもいっこうに体がゆるまない方がおられました。強い刺激を加えても、時間をかけて刺激してもゆるまず。途方に暮れました。

 そんなこんなでモヤモヤしていると、真逆のアプローチがあることを知りました。触れるか触れないか程度の圧で治療する、という方法です。鍼の世界にも、「鍼を刺して効果が無ければより浅く刺してみよ」という格言があるそうで、鍼でいけることなら指でもいけるんじゃなかろうか……と思い、軽く触れただけでしばらく待つ、という刺激を加えてみたところ、その方のコリが溶けるように消えて行ったことがあります。

 弱い刺激のほうが大きく効果をもたらす場合があるということです。北風と太陽のごとく。頭ごなしに叱責されるよりも、優しくたしなめられたほうが、その人の行動を変えたりする場合もあります。そんなのに近い感じかもしれません。

 そんなこともあって、しばらく低刺激な治療法の信者となった私はソフトな刺激でコリをとる面白さにのめりこみました。これまで治らなかった方がどんどん楽になっていくので、それはもう面白くてたまりません。

 ……ですが、今度はそれにとらわれすぎると、ナカナカ治らない方も。そうすると、今度は逆に強い刺激をする系の施術も活躍することに。今にして思えば、低刺激にこだわり過ぎた時期に、こりゃダメだと離れいった患者さんもおられたでしょうし、その逆に高刺激ブームの時にお越しになった方の中にも、キツすぎて無理だと離れていった方はおられるでしょう。

堂々とブレブレに至る

 何となく「どっちかが正解」というのを求めていたのだと思いますが、そんなときに、上記の「振幅上達理論」を思い出し、堂々とブレ続けることにしました。そんなわけで、当院の治療は、今もブレブレです。

 強vs弱以外にも、浅いvs深い、自動vs他動、点vs面、速いvs遅い……と、まぁ、いくらでもあるんですが。ブレ軸が。

 そのブレブレの振幅で、ほんとうに「振幅上達理論」にあるように上達しているかどうかは、私自身にはどうこう言える感じではありませんが、そんな「あがき」が、結果的にお役に立てば幸いであります。

 大槻ケンヂさんの『人として軸がぶれている』をテーマソングにがんばろうと思います。