腰痛

腰痛に関する新聞記事が、また、世に生まれました(笑)。

腰痛、推定2800万人 40~60代の4割、悩む
http://www.asahi.com/tech_science/update/0323/TKY201303230226.html

原因不明の腰痛では、安静よりも運動が効果的で、
1カ月以上続く痛みにはマッサージの効果は
はっきりしなかった。

と、あります。
さらに、もうひとつ。

腰痛緩和にオステオパシー療法は超音波より有効(2013.3.28掲載)
http://www.healthdayjapan.com/index.php?option=com_content&view=article&id=4345:2013328&catid=20&Itemid=98

整骨医が手技で患者の腰の筋肉を動かすオステオパシー療法
(オステオパシー・マニピレーション・テクニック[OMT])が、
超音波療法よりも腰痛緩和に優 れている可能性が新しい研究で示唆された。
OMTにより、超音波療法よりも高い治療効果が得られただけでなく、
12週間の研究期間中に使用する薬剤の量に も減少が認められたという。
OMTを受けた患者の約3分の2で30%の疼痛レベル軽減が認められ、
そのうち半数には50%の疼痛軽減がみられた。

マッサージとオステオパシーの差について深入りすると
果てがないので、それは置いておきます。

それにしても、みごとに両記事の主張は割れています。
私は別に、前者の記事について、

「マッサージが腰痛に効く根拠がないとは何事だ、
こんなに良くなっている例があるのに。それにほら、
こちらの記事では超音波より効いているって言ってる
じゃないの」

と、言いたいわけではありません。

ただ、こうした問題を話すのは本当に難しいよなぁ……と。

難しいと言うか、あまりにも千差万別で個人の技術も違う
手技療法を、ほかの治療法と同じマナイタに載せること自体が、
どこまで意味があるのだろうか……という思いがあります。

こうしたことを議論するにあたっては、問題点が三つ
あると思います。

①適切な施術がなされたかが検証できないし、
本当に適切な施術が何かなんてわからない

手技療法でご飯を食べてる人は、慢性の腰痛を施術して、
それなりの成果を出した経験はあるでしょうし、その一方で、

「何も考えずに腰揉んで治るもんじゃないよね」

という点でも考えは一致すると思います。
極端な話、

「効かなかったのは、マッサージした人間がヘボだからだ」

として一蹴してしまう人も多いでしょう(笑)。

要するに、誰が、誰に、どんな状況で、どんなことをしたのか、
そしてそれが適切だったのか、という点が、ほかの治療法にくらべて
モヤモヤしてしまうわけです。

「慢性の腰痛が足首を調整したら楽になった」

とか、離れた部位の施術で影響が出ることもありますし、
その場で楽にならなくても数日後に抜けて行った、みたいな例もよくあります。
そして、私の経験上、

「何をしても良くなる」

という人もいます(笑)。

これは次の②にも関わることですが、「適切な」処置かどうかは、
禁忌症を無視したとか危険なことをした、ということを除けば、
あとは結果からしか判断できないのかもしれません。

②施術そのものの効果を純粋に抽出できないし、
 抽出したところで実はあまり意味がない

朝日新聞の記事では「認知行動療法」が推奨されていますが、
治療法の中身をとわず、治療する側は
「ストレスが」
「姿勢が」
「骨盤のねじれが」
「悪い霊が」
「椎間板が」
「腰背部の筋膜が」
「気の流れが」
「○○筋が」
「膀胱経のつまりが」
「仕事の仕方が」
「腰の神経が」
「前世の因縁が」
「内蔵の疲れが」
「トラウマが」
「足首のねじれの影響が」

……と、様々な「問題点」を推測し、
患者さんと話をすることになるはずで、
こうした会話が結局のところ、
認知行動療法として機能している面も
あるのではないかと思います。

また、たとえ会話がなくても、病院や治療院に
出向いて、施術を受けるという「非日常的な儀式」が、
認知行動療法的なプロセスとして機能してしまう
こともあるでしょう。

つまり、手技の治療院も「マッサージ以外」の
ことを「してしまっている」わけです。

患者さんとの会話も検査もなく、要するに人間同士で
行うものという前提をすっとばして、黙々と揉んでおしまいの
「純粋マッサージ治療」というのは、実験の上でしか
存在しえないのではないかと思います。

そして、どれほどマッサージが上手い人がやっても、
そんなふうにやったのでは、たぶんあんまり効かない
だろうなぁとも思います。

人間が人間に触る、というときに、おそらく
その場には色々なことが起きているはずだと思うので。

世の中にたぶん存在しない「純粋マッサージ治療」の
効果の有無がわかっても、おそらくあんまり意味が
無いのではないかな……と思います。

③治るって何なのか、実はよくわからない

おいおいおい、治療院なんて看板ぶちあげといて、
何書いてるの、と思われる方もいるかもしれませんが、
何をもって治ったとするか、という基準が、実に難しい、
ということです。

痛みが軽減したかどうか、というのを、どのタイミングで
考えるか(直後か?3日後か?1週間後か?1年後か?)
ということもありますし、痛みが軽減しさえすればいいのか、
という点での議論も必要でしょう。

あらゆる自然治癒を自分の手柄にしてしまえば、
おそらくその治療法、その先生は、超人的な治療成功率を
誇ることになるはずです。

また、腕にざっくり深い切り傷でも付ければ、
そこそこの慢性腰痛の痛みならばたぶん忘れられます。

その場合、新しい痛みをつけるという方法が、
優れた腰痛治療法とみなされるかどうか。
まあ、みなされないでしょうけど(笑)。

痛みについての議論は、細かく考え始めると
果てが無いです。

 

……という以上の三点から、エビデンスに基づいて、
痛みに対する手技療法の効果を他の治療法と比べて
検証するのはとっても難しいと思う次第。

検証しづらいものだからこそ、我々手技療法に
たずさわる人間は、自分の方法やその根拠が、
まっとうなものなのかどうか、自分に問い続けないと
いけないよね、と思うのでした。

結局は。