「治り方を治す」整体学:なぜ「楽な方」に動かすと、つらい症状が消えるのか?

長年の肩こりや腰痛に悩む方に、よく見られる共通点があります。
それは、身体が無意識のうちに「防御モード」に入り、その状態が日常になってしまっていることです。

例えば、過去に腰を痛めた経験があると、脳はその痛みを二度と経験しないように、腰周りの筋肉を常に緊張させて守ろうとします。この「過剰な警備」が、結果として血流を悪化させ、新たなこりや痛みを慢性的に生み出してしまうのです。

身体は、良かれと思って「間違った治り方」を学習してしまった状態と言えるでしょう。

ここで多くの方が試すのが、痛いところを無理に伸ばしたり、マッサージで強く押したりすることです。しかし、これは警戒している警備員を力ずくで押さえつけるようなもの。身体は「危険だ!」と判断し、さらに防御を固めてしまいます。

では、どうすればいいのか。
その答えが、「治り方を治す」というアプローチです。

これは、防御反応を起こさせないことを大前提とします。操体法などで用いられるように、「楽な方」や「気持ちいい方」に身体を動かしてあげるのです。

痛い前屈を無理強いするのではなく、気持ちのいい後屈を味わってもらう。
すると、脳と身体は「あ、この動きは安全なんだ」「もう警備しなくても大丈夫なんだ」と学習し、自ら防御モードを解除し始めます。

先日も、ガチガチに背筋を伸ばしている患者さんに、あえて少しだけ猫背になってもらいました。
「この方が楽じゃありませんか?」と聞くと、「楽です。でも猫背ではいけないのでは?」とのお言葉。

猫背は、猫背のまま固まってしまったら問題ですが、「疲れた背中を休めるためにはむしろ猫背にしたい時はしてしまうのもアリなんですよ。猫背の形にしないと休まらない神経や筋肉、腱、靱帯もあるんです」という話をしたら、「えっ」と驚かれました。

このように、少なくない人が自分の快適さや楽さよりも、<規範通りの正しさ>に支配されて身体を使っています。身体はもっと、自分が楽かどうかということを頼りに使っていいものなのです。

楽な動きで防御反応を解除し、身体が本来持っている「正しい治り方」を思い出させてあげる。
これが、私が考える施術の核です。

もしあなたが長年、痛みと「戦って」きたのなら、一度「戦わない」アプローチを試してみませんか?身体はきっと、その方が早く応えてくれますよ。

※ちなみに「治り方を治す」は、ピタゴラスイッチで有名な佐藤雅彦さんの「作り方を作る」をもとに考えたフレーズです。