胸郭出口症候群、こんなことでお困りではありませんか
胸郭出口症候群の定義
胸郭出口症候群とは、首から腕にかけて通っている神経や血管が圧迫されることで起こる症状の総称です。胸郭出口とは、首の筋肉(前斜角筋・中斜角筋)と第一肋骨、鎖骨で囲まれた狭い通り道のことで、ここを腕神経叢という神経の束と鎖骨下動脈・静脈が通過しています。この狭い空間で神経や血管が圧迫されると、腕や手のしびれ、痛み、脱力感、冷感などの症状が現れます。特に腕を上に挙げる動作や重いものを持つ動作で症状が悪化するのが特徴です。
この症状に悩む人の推定患者数
胸郭出口症候群の正確な患者数については、厚生労働省による全国規模の調査は行われていませんが、医学研究によると頚肩腕痛・しびれ・脱力を訴えた患者の約30%が胸郭出口症候群と診断されるという報告があります。高校野球選手を対象とした疫学調査では305名中13名に胸郭出口症候群が疑われるという結果も出ており、特に20〜40代の女性に多く発症し、男女比は約1:3で女性に多いとされています。現代社会におけるデスクワークの増加やスマートフォンの普及により、潜在的な患者数は増加傾向にあると考えられています。
この症状を放置するとどうなるか
胸郭出口症候群を放置すると症状は段階的に悪化していきます。初期には腕を上げた時にのみ現れていた症状が、進行すると安静時にも常時しびれや痛みが出現するようになります。握力の低下により日常生活での細かい作業が困難になり、物を無意識に落としてしまうことが増えます。さらに進行すると手指の運動麻痺が起こり、ボタンをかけたり箸を使ったりといった基本的な動作に支障をきたします。血管型の場合、血管内に血栓が形成されて腕の血管が詰まり、手指の壊疽や肺塞栓症という生命に関わる合併症を引き起こす可能性もあります。また、慢性的な痛みとしびれにより睡眠障害や精神的ストレスが生じ、日常生活や仕事に深刻な影響を与えることになります。
胸郭出口症候群の一般的な原因について
なで肩の体型と骨格の異常
なで肩の女性に多く見られ、鎖骨が下がることで神経や血管の通り道が狭くなります。また、頚肋(本来存在しない余分な肋骨)や第一肋骨の形成異常などの先天的な骨格異常も発症要因となります。
不良姿勢とデスクワーク
長時間のパソコン作業やスマートフォンの使用により、猫背や肩をすくめるような姿勢が続くと、胸郭出口が狭くなり神経や血管への圧迫が増加します。
反復的な腕の挙上動作
野球やテニスなどのオーバーヘッド動作を伴うスポーツ、美容師や塗装工などの職業で腕を頻繁に上げる作業を行うことで発症リスクが高まります。
筋肉の緊張と筋力不足
首や肩周りの筋肉(前斜角筋、中斜角筋)の過度な緊張や、肩甲骨周囲の筋力低下により神経や血管への圧迫が生じます。
重量物の運搬と外傷
重いバッグを肩にかけたり、重労働により首や肩に過度な負担をかけること、また交通事故などの外傷により発症することがあります。
病院での一般的な対処法
理学療法・リハビリテーション
肩甲骨周囲の筋力強化やストレッチ、姿勢改善指導を中心とした運動療法を実施します。僧帽筋や肩甲挙筋の強化により症状の軽減を図ります。
薬物療法
消炎鎮痛剤(NSAIDs)、血流改善剤、ビタミンB1製剤、筋弛緩薬などにより症状の緩和を目指します。重症例では神経ブロック注射も行われます。
装具療法
肩甲骨を挙上させるための装具や姿勢矯正ベルトを使用して、神経や血管への圧迫を軽減します。
生活指導
腕を上げる動作の制限、重いものを持つことの回避、正しい姿勢の指導、作業環境の改善などの生活習慣の見直しを行います。
神経ブロック療法
斜角筋間ブロックや星状神経節ブロックにより局所的な神経の働きを抑制し、症状の軽減を図ります。
手術療法
保存療法で効果が得られない重症例に対して、第一肋骨切除術、前・中斜角筋切離術、頚肋切除術などの外科的治療が検討されます。
患者さんがよく抱く疑問
・胸郭出口症候群は自然に治りますか?
・胸郭出口症候群の人がやってはいけないことは?
・どのような姿勢や動作に気をつければよいですか?
・しびれや痛みはどのくらいで改善しますか?
・手術以外に根本的な治療法はありませんか?
・日常生活で特に注意すべき動作はありますか?
・スポーツや運動はいつから再開できますか?
・症状が悪化するサインはありますか?
・この病気は遺伝しますか?
・完治は可能でしょうか?
山田治療院からの回答
胸郭出口症候群は自然に治りますか?
軽度の場合は姿勢や生活習慣の改善により自然軽快することもありますが、多くは適切な治療が必要です。当院では神経系の働きを整えることで、根本的な改善を目指します。
胸郭出口症候群の人がやってはいけないことは?
腕を長時間上げ続ける動作や重いものを肩にかける行為は避けるべきです。ただし完全な安静は逆効果で、適切な身体の使い方を身につけることが重要です。
どのような姿勢や動作に気をつければよいですか?
猫背や肩をすくめる姿勢を避け、肩甲骨の位置を正しく保つことが大切です。武術の身体運用を参考にした姿勢改善法をお教えします。
しびれや痛みはどのくらいで改善しますか?
症状の程度により異なりますが、神経系へのアプローチにより多くの方が数回の施術で変化を実感されます。根本的な改善には数か月を要する場合もあります。
手術以外に根本的な治療法はありませんか?
当院では神経科学に基づいた施術により、神経の圧迫そのものを解放するアプローチを行っています。多くの方が手術を回避し、症状の大幅な改善を実現されています。
日常生活で特に注意すべき動作はありますか?
洗濯物を干す、電車のつり革につかまるなどの腕を上げる動作時は、全身の連動性を意識することが重要です。局所的な負担を全身で分散する方法をお教えします。
スポーツや運動はいつから再開できますか?
症状の改善に伴い段階的に再開していきます。ただし従来の動作パターンではなく、神経系の協調性を高めた新しい身体の使い方での復帰を目指します。
症状が悪化するサインはありますか?
握力の著明な低下や手指の運動麻痺が現れた場合は注意が必要です。早期に適切な治療を受けることで、より良い予後が期待できます。
この病気は遺伝しますか?
骨格的な要因による場合は遺伝的素因もありますが、多くは後天的な身体の使い方が原因です。適切な身体運用を学ぶことで予防可能です。
完治は可能でしょうか?
神経系の働きを根本的に改善することで、症状の完全な消失は十分可能です。ただし再発防止のため、継続的な身体の使い方の改善が重要になります。
胸郭出口症候群についての情報の引用元
・日本整形外科学会「胸郭出口症候群」
・慶應義塾大学病院KOMPAS「胸郭出口症候群」
・メディカルノート「胸郭出口症候群ではどんな治療をするの?」
・血管外科医 笹嶋唯博「胸郭出口症候群 Thoracic Outlet Syndrome」
・日本肩関節学会「高校野球選手における胸郭出口症候群-疫学調査と病態の検討-」
・脊椎脊髄病学会「当院における胸郭出口症候群の診断および治療方針についての検討」
・各種医療機関の胸郭出口症候群に関する専門情報
・整形外科専門医による胸郭出口症候群の診断・治療に関する文献