人生は楽しいかい?
人生は楽しいかい?

最初に「小説仕立てのシステマの本が出るらしい」と聞いた時は、冗談だと思った。

ある日、Facebookで書影を目にして、その本がどうやら本当に世に放たれるらしい、と知った。

悩める主人公をおっさんが導くという体裁とタイトルは、ひと昔前に流行った『仕事は楽しいかね?』に似ているし、帯を外した表紙は、イラストといい、英語版タイトルのように置かれている文字列といい、『金持ち父さん貧乏父さん』っぽいし、帯の「なんとなく大丈夫っちゅう感覚、めっちゃ大事やねんで!」が、これまた映像化までされた『夢をかなえるゾウ』っぽい。しかも帯にはシステマを学ぶお笑い芸人、ピーマンズスタンダードの南川さんが顔出しで一言、「全然つらくないです。システマやってるんで」。

これはもう、売る気だ。
もはや手段を選ばず、たくさんの人に読んでほしいということだな、と、こちらも襟を正した。

本書の監修者(笑)である北川さんにそそのかされてロシアに飛んで、システマ創始者ミカエルに触れて、早7年。以来、細々とながらトレーニングは続けつつ、北川さんの著した本を何冊も読んできた。そんな北川ファンの私としては、避けるわけにはゆくまい。

近所の有隣堂で、平積みであった。
武道コーナーよりはるかに大きな売り場面積を有する自己啓発書コーナーに。
そう、やはりこれは、売る気なのである。
よっしゃ買ったるわ。

果たして、一気に読了。

これまでのシステマ本ではなかなか伝わりづらかった、システマのニュアンス部分……とりわけ、システマのマスターやシニアインストラクターのセミナーで語られたり、背後にちらついたりするシステマの思想が、小説という形式のおかげでじわりじわりと浸透してくるのを感じた。

僕の細々としたシステマ経験では、システマは相手をやっつける技術というよりは「生きて帰って来る」ためのもので、「普通に生きていく」ためのものである(本当に細々としか続けていないので、偉そうなことを書くのは恐懼の至りだけど)。

そのせいか、システマを学ぶ場には、「凄みのある優しさ」とでも言うべき空気が流れる。この本の凄さは、そうした「風味」というか「ニオイ」というか、そうしたものを伝えてくるところである。

これは、原稿があらかた書かれた後になってから小説形式を提案した編集者氏の英断と、それを受けて立って原稿をゼロから書き直した著者の覚悟が合わさって成し得た偉業であると思う。人生に苦しさ、生きづらさを感じる人には広くオススメする。読みなはれ。

ただひとつ、難点を挙げる。

読後、ラーメンとギョーザが食べたくなる。
僕は、食べた。